空論上の砂、楼閣上の机。

The Castle of Indolence

それ以上でもそれ以下でもない

[語誌]「以上」で示される基準に達しない場合は、「以下」あるいは「未満」を用いて表現する(「五人以上」⇔「四人以下・五人未満」)。現代語では「以下」は基準となる数値を含んでその数値を割る場合、「未満」は基準となる数値を含まないで、その数値を割る場合である。なお、古典語の場合、基準となる数値を含むかどうかは必ずしも厳密ではない。

しかし、この解釈を取ると明治から昭和にかけて生まれたであろう「それ以上でもそれ以下でもない」という言い回しがよく理解できなくなってしまいます。よくよく考えてみると「以内」と「以外」は対を成していませんし、「以東・以西・以南・以北」はその地点を含むか微妙な面もあります。

ここで 1954 年に初版が発行されてから長きにわたって読み継がれてきた、柿内賢信 訳・G. ポリア 著『いかにして問題をとくか』の p. 160 を見てみましょう。

例 1. $n$ 次の代数方程式にはちょうど $n$ 個の根がある. ガウスによって代数学基本定理とよばれたこの定理は, よく何の準備もない学生にいきなり示されるにちがいない. しかし学生は $1$ 次方程式の根は $1$ つであることは知っている. 同様に $2$ 次方程式の根は $2$ つであることも知っている. またこのむずかしい定理は, どんな $n$ 次の代数方程式でも $n$ 個以上のちがった根をもつことはないという証明しやすい部分をその中に含んでいる……

これはどう考えても「$n$ 個より多い」と理解しないとおかしいことになります。ここまで明確に書かれており何十年も直っていないのであれば、もはや誤植というわけではなく一種の用法と見るしかないでしょう。実は数学のみならず、明治には「物数及名称ニ以上以下等ノ文字記載方」という法律も存在します。