空論上の砂、楼閣上の机。

The Castle of Indolence

I play {∅︎/a/the} guitar.

米語母語話者のニック・ノートン氏による非常に興味深いコメントを発見しました。

youtu.be

要約すると次の通りです。

  • 微妙な差ではあるものの、I play guitar. は習慣的に、I play {the/a} guitar. は初めて、ギターを弾くことを意味するように感じられる。piano や harmonica や trumpet もこの類に属する。
  • しかし I play saxophone. は言えず I play the saxophone と言う。accordion もこの類に属する。

ここで The Beatles の挨拶を聞いてみましょう。

I’m Ringo, and I play the drums.
I’m Paul, and I play the bass.
I’m George, and I play a guitar.
I’m John, and I too play guitar, sometimes I play the fool.

なんと全パターンが出尽くしています。ここで、早速ですが樋口 (2009) で答え合わせをしましょう。ただし〔…〕は引用者注で、例文は省略しました。

3.1.5. 楽器名
play に続く楽器名もしばしば無冠詞で用いられます。これは、このとき楽器名はジャズバンドなどにおけるパート、つまり、「役割」を表すので、原理Ⅲ〔英語の名詞部は、「働き」を表すときは a/an をとらず、「個体」として認識されるときは a/an(あるいは他の限定詞)をとる〕により、冠詞をとらないからです。(以下の例文の多くで in a/the band(または類義語句)が共起しているのがその証拠です;“play the 楽器名” に関しては §8.6.2 参照。)他方、楽器名が無冠詞で learn/study/teach などの目的語として用いられるときは「演奏法」(👉§2.4「技法」)を表します。
辞書では the がかっこに入っている例もありますが、the がある場合とない場合とは同義ではありません。the の有無は、典型的には、バンドでのパートを表すか否かによって決定されるからです。

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樋口, 2009. p. 51.
8.6. 総称
8.6.2. (play+) 楽器名
play に piano/guitar/violin/flute など楽器名が続くときしばしば the が付けられるのは、演奏者は同種の楽器ならどれでも演奏する能力があるはずだからです。念のため付言するならば、“the + 楽器名” は play 以外の動詞(例:learn, practice)とも用いられます(§3.1.5 参照)。

ここで一般的に大事な注意をしておきたいのですが、図中の φ はギリシア文字のファイであって、言語学でのゼロを表す記号は ∅︎ です。なお、Unicode では

  • U+00D8 Ø ストローク付きラテン大文字
  • U+00F8 ø ストローク付きラテン小文字
  • U+2205 ∅ 空集合
  • U+2300 ⌀ 直径サイン

の区別があることに注意してください。

「僕バンドやってます」「あ、なにをやる?」「I play guitar.」たぶん「I play the guitar.」って言わないと思う。

という舞台設定がいかに適切だったか理解できます。他にもジーニアス英和の piano の項目には

「(初出の)ある」という意味の場合や限定的な修飾語句を伴う場合は, a piano が用いられることもある: I heard music coming from the empty building, and when I looked in the window I saw a man playing a piano. だれもいないはずの建物から音楽が聞こえてきた. 窓から中をのぞくと男がピアノを弾いているのが見えた / He hates playing a piano that is out of tune. 彼は調子の外れたピアノは弾きたがらない.

という記述があるのですが、これも簡単に説明の付く現象になっているはずです。

では John の I play the fool. はなぜ the が付くのでしょうか?

典型的な役割(「プロトタイプ」と呼びます)が演じられるとき、act/play は “the + 名詞” を従えます。“play φ 名詞”(👉§3.1.4)では「役割」に重点が置かれますが、“play the 名詞” では、だれもが連想する、特定の「特徴」(=プロトタイプ)に重点が置かれています。

他にも久野・高見 (2008) には次のような用例が載っています。曰く、the がつかない場合は対立を表さないということであり、「その楽器の弾き方を知っている」とか「職業としてその楽器を演奏している」とかいう意味になるらしく、スポーツは独立しており対立させる必要がないから the がつかないのと同じ原理であるとのことです。しかしながら、やはり樋口 (2009) の方が詳細な記述がなされていると言うべきでしょう。

(13) a. In summer I take a vacation and go to Hawaii.
b. Winter is gone and spring is here.
(14) a. Lonnie played guitar and his daddy and brother played violin.
b. Anyone who plays piano knows that is no great feat.
(15) a. We play soccer after school every day.
b. Playing baseball is fun.
(16) a. Portrait of a Hippy Playing a Guitar
b. This guitar would be great for students and beginners who would like to master the challenge of playing a guitar or if you are simply looking for a hobby.
c. Playing a guitar will give you an instant reflection of either how well it is set up, or how out of whack it is.

最後にですが、上の YouTube の動画のコメント欄でこんな面白いものを発見したので引用しておきます。

As a British guy, dropping “the” just makes you sound American. To me there is no difference between “I play guitar” and “I play saxophone.” They both just sound American. But, honestly I'm sure many British people would drop “the” too.
Edit: Thinking about it some more, it feels like “the guitar” is referring to the instrument as an abstract concept and “guitar” is referring to the role in a band. The reason you might feel different about “guitar” and “saxophone” could be due to how much you think of them as roles you typically have in a band. It could just be because I’m not a musician and don’t hang around with musicians that dropping “the” seems a little bit odd/American to me.

気になったので Google Ngram Viewer にぶち込んでみました。

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Google Ngram Viewer (play {∅︎/a/the} guitar)

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Google Ngram Viewer (play {∅︎/a/the} piano)

年代を見る限りは、やっぱり the が付く方が “由緒正しい” 表現なのでしょうけれども、それにしても play guitar ってこんなに頻度高いんですね?(衝撃)

追記. 友人に言われて saxophone, accordion も試してみたら、play accordion は圧倒的に使われないのに対し、意外と play saxophone は使うっぽいですね。特に play sax だと一気に頻度が上がってきます。

参考文献

久野暲, 高見健一. (2008).『謎解きの英文法: 冠詞と名詞』. くろしお出版.
樋口昌幸. (2009). 『英語の冠詞: その使い方の原理を探る』. 開拓社.