空論上の砂、楼閣上の机。

The Castle of Indolence

英検一級について

注意. これはただの呟きにすぎないものなので、あまりあてにしすぎないようお願いします。

英検は非常に人気の高い英語の試験だ。その中でも一級は大きな山として君臨し続けており、自分も受かる数年前までは最高峰の山だと思っていた。が、いざ受かってみると、別になんてことはない。人生で何かが変わるわけでもなく、ただ単純にもうわざわざ貴重な休日を潰し数千円を払って数時間試験を受けることを考えなくて良くなった、という「英検の呪縛」から解き放たれるための卒業試験と捉えるのがよいのだろう。そして確かにそれは価値のあることなので、そのためのヒントをメモとして書き記しておく。たぶん、誰の役にも立たない気はするが……

まず、英検を受ける必要が特に感じられないのであれば、別に受けなくとも何ら問題はない。TOEIC でも TOEFL でも何でもそうだ。受けないと心に決めたのならばそれで全く問題ないのであって、それを「逃げ」だとか形容する人は無視してよいことを私は強く保証する。そもそも英語を勉強することだって、今の時代は DeepL や otter.ai があるので、「機械があっても英語を勉強せねばダメだ!」「DeepL はこんな文さえ訳せやしない(嘲笑)」と声高々に叫ばれているのを「ポジショントーク」「自らの努力を正当化するための認知的不協和」と一蹴しても(それを発言することに伴う対人関係の軋轢以外に)特に何か大きな問題が起こるわけでもない。これは本当だ。嘘だと思うのなら実際に DeepL を使ってみればよい。99%の確率で(特に日英翻訳では顕著に)速度においても質においてもあなたは DeepL に敗北する。そしてそれは当たり前のことだ。九九の速さや正確さで計算機に負けることを恥ずかしがったり悔しがったりする人間がどこにいるというのか? もうすぐ語学を学習する実用上の理由は消え失せてしまい、ただ「母語の相対化による思考の洗練」や「言語学習という貴重な経験」が主として強調される時代が来るだろう。その時代では、他言語話者と話す際にはスマホを持って Google 翻訳のアプリを開き、マイクボタンを押して喋れば全てが済んでしまうからだ。

しかし、それでも語学学習は価値のあるものだと私は思うし、英検一級を目標に据えること自体は非常に健全なことだと確信する。その場合はまず一級にチャレンジする準備ができているかのチェックをしよう。過去問はいくらテキトーに使い潰しても有り余るほど素材はあるので、もったいないという感覚など捨ててどこか直近の年度を公式サイトから見てみる。辞書と文法書と筆記用具と紙を用意して、まずはリスニング原稿をいきなりクリックして読んでしまおう。辞書と文法書と首っ引きで全然構わないので、正確に根拠を持って答えを選んでいき、分からなくともあてずっぽうで選んではならない。その次は語彙問題と長文問題を辞書と文法書と首っ引きで全然構わないので解いていく。英作文は一旦無視でも大丈夫だ。ここで大事なのは、「ケアレスミスだった」という言い訳が効かないぐらいにきちんと根拠と自信を持って答えるということで、この作業が出来るまでは何日でも何週間でもかけて大丈夫だ。「もうこれ以上に自分の頭と辞書と文法書から導き出せるより良い回答は絶対にない」と心から思えた段階で、早速マル付けをしてみよう。

八割を切ったら一級に挑戦すべきではない。お試し受験をするのはもちろん良いと思うが、たぶん受からない。自分は中二の十月に一級に挑戦してボーダー(2028)から10点ぐらい下で落ちてしまったのだが、たぶんこのチェックをやらせてみれば六割ぐらいしか取れなかっただろうと確信している。こういった場合は、たとえ準一級に合格している場合でも、そもそも基礎力が根本的に欠けている。今なら『英文解体新書』を読み通すだけで十分お釣りが来る実力が付く。それ以上……と考える前に、まずは解体新書を一冊丸ごと完璧に読み込んでほしい。まずはそこからだ。それからの深い話は一級に受かってからいくらでも腐るほど考えることができる。コレクターになったところで何も身に付いていないだけになってしまうことが非常に多いし、自分もそうだ(った)からその気持ちは痛いほど分かる。そしてたしかに昔は『英文解釈教室』や『思考訓練のための英文解釈』などという前世紀の遺物(たとえば men が「人間」を指していたり、he が総称として使われていたり、あるいは「土人」などという差別語があったり……とにかく自分としてはオススメしない)しか良い素材がなかったので仕方なかったのだが、今は解体新書という名著が出ているのだから黙ってこれに注力するのが最優先だ。

九割以上取れていれば十分挑戦できる立派な実力の持ち主なので、あとはひたすら語彙を覚えたりリスニングや英作文に慣れたりするだけで大丈夫だ。ここからは筋トレと同じなので、日々の弛まぬ鍛錬こそが自らを強くしてくれるだろう。最近は色々と良い素材も増えてきたようなので、ここについては自分の好きなものを選べばOK。カッコいいデザイン、見やすいレイアウト、イカしたフォント、覚えやすい例文、……とにかく本でもアプリでも何でも良いので、自分が愛着を持てそうなものと真摯に付き合っていけば必ず結果は出る。基礎力があるのだから、どんなに挫けそうなときでも自信を持って筋トレを続けるべきだ。一級は、振り返ればなんてことないただの一山だが、登り切ったときの高揚感はひとしおだ。だからとにかく、ここのフェーズにいる方はどうか自分を信じ続けてほしい。

さて、一次試験を受ける場合に注意すべきことは、英検は座席が自由なので、出来るだけ早く会場に着いてスピーカーの近くに座るのが好ましいということだ。そして必ず試験前にトイレに行き、水を飲みすぎないように心がけよう。リスニング中に尿意を我慢することだけは絶対に避けたい。ただ、もしどうしても試験中にトイレに行きたくなってしまったら、覚悟を決めてさっさとトイレに行ってしまった方が良いと思う。

二次試験については、リスニングをしながら、英作文と同じことを口頭で即興でやるだけなので、一次試験の対策で付けた力が必ず役に立つ。もし意見そのものがパッと出てこないようであれば、ヒントとして「あまりマジになりすぎなくてよい」と言うことができる。面接官は受験者と命をかけて論争しに来ているわけではない(逆は知らないが)ので、反社会的・反道徳的なことを言っても特に問題はない。ただ、ad hominem な攻撃は止めるべきである。政府を非難することは構わないが、首相の人格などを中傷することはダメだ。熱が入るとついついやってしまう人をよく見かけるので、自覚症状がある場合は注意を要するだろう。