空論上の砂、楼閣上の机。

The Castle of Indolence

等加速度運動の公式とは何だったのか?

後輩が混乱していたので整理するために記事にしてまとめておきました。教育的になるよう丁寧に論じましたが、ある程度分かっている方は証明の部分だけ読んでいただいて構いません。

古典力学では, 粒子の位置を $\bm{r}(t)=(x(t),y(t),z(t))\in\R ^ 3$ という時間 $t\in\R$ の関数として表します.

  • どの成分でも全く同じ議論が適用できるので, 粒子が $x$ 軸上に束縛されているとして $1$ 次元の運動を考えることにします.
  • 煩雑に見えるのでパラメータ $t$ を省略して書くことにします.

次の物理量を定義します.

  • 速度: $v=\dfrac{dx}{dt}=\dot{x}$
  • 加速度: $a=\dfrac{dv}{dt}=\dot{v}$
注意. これ以上の導関数を考えることもあり, 躍度 (加加速度, jerk/jolt) という名前がついています. それ以降は snap/jounce, crackle/flounce, pop/pounce, Lock, Drop, Shot, Put という名前がついているようですが, 有名な訳語は (「加…加速度」とする以外に) 存在しないはずです. なぜ速度と加速度だけが有名なのかというと, 運動方程式が (端的に) $ma=F$ という微分方程式であるからというだけだと思います.

一般的に, $t=t_0$ のときを基準にすることにして, $x_0=x(t_0)$, $v_0=v(t_0)$ とおくことにしましょう.

$$\int _ {t _ 0} ^ {t} vdt=\int _ {x(t _ 0)} ^ {x(t)}dx=x-x _ 0$$

より

公式1 $$x=x _ 0+\int _ {t _ 0} ^ {t}vdt$$

同様にして,

公式2 $$v=v _ 0+\int _ {t _ 0} ^ {t}adt$$

これは一般的に成り立つ公式であり, 普通はこれ以上の情報を引き出せることはありません.


しかしながら, $a$ が時間によらず一定であるという等加速度運動のときには, 色々と特徴的な運動が見出されることが知られています. これは単なる toy example ではなく, 多くの物理現象が等加速度運動になることがあるので重要な意義があり, その性質も当然よく問われて然るべきだということになっているわけです.

それではまず完全解を出してみましょう. 先程の式を逆に辿ってみると,

公式3 $$v=a(t-t_0)+v_0$$

これをあえてバラさずに上手に積分すれば,

公式4 $$x=\dfrac{1}{2}a(t-t_0) ^ 2+v_0(t-t_0)+x_0$$

この2つは当然サッと書けるべき結果ですが, これに加えて次の2つの関係も準公式として記憶されるべきものになっています.

公式5 $$x-x_0=\dfrac{1}{2}(v+v_0)(t-t_0)$$
注意. なぜかこれを覚えている人は少ないのに次を覚えている人は大量にいるという不思議な事実があります. どちらも大事な式なので記憶しておきましょう.
公式6 $$v ^ 2-v_0 ^ 2=2a(x-x_0)$$

大事な計算練習として, すでに求めた完全解からこの2つの式をちゃんと導出することをやってみましょう.


その上で, 次の導出も必ず身に付けておくべきです.

公式5の解釈. 変位 $x-x_0$ は, 平均速度 $\dfrac{v+v_0}{2}$ で時間 $t-t_0$ だけ動いた距離に相当するから, 等速度運動と考えれば自明となる.
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公式5の解釈
公式6の証明. 定義より $v=\dfrac{dx}{dt}$ かつ $a=\dfrac{dv}{dt}$ であるから, $$v\dfrac{dv}{dt}=a\dfrac{dx}{dt}$$ なので, $$\dfrac{d}{dt}\left(\dfrac{1}{2}v^2-ax\right)=0$$ より $$\dfrac{1}{2}v^2-ax=(\text{一定})=\dfrac{1}{2}v_0^2-ax_0$$ であるから $v^2-v_0^2=2a(x-x_0)$ を得る.
注意. 連鎖律 (合成関数の微分法) により $$\dfrac{d}{dt}\left(\dfrac{1}{2}v^2\right)=\dfrac{dv}{dt}\dfrac{d}{dv}\left(\dfrac{1}{2}v^2\right)=v\dfrac{dv}{dt}$$ となることに注意しましょう. これは初見では絶対に思いつかないので必ず暗記してください.

これは物理学における保存量の存在を示したことに他なりません. というのも, 物理量が保存するというのはそれが時間によらず一定であるということを表しているので, この証明においては物理量 $\Phi=\dfrac{1}{2}v ^ 2-ax$ が保存量であることを用いて公式を副次的にゲットしたということになります.

この議論をもっと微分形式的な考え方で書き直してみると更に簡潔に構造を見ることができます.

公式6の証明 (改). 定義より $$dx=vdt,\ dv=adt$$ なので, $$vdv=adx$$ であるから, $$0=vdv-adx=d\left(\dfrac{1}{2}v^2-ax\right)$$ より $$\dfrac{1}{2}v^2-ax=(\text{一定})=\dfrac{1}{2}v_0^2-ax_0$$ であるから $v^2-v_0^2=2a(x-x_0)$ を得る.

この考え方も必ず身につけておくべきでしょう.


ところで, この「保存量」の正体は一体何だったのでしょうか? 実は $a$ を上向きを正とした重力加速度 $-g$ に置き換えてみると非常に自明な結果が出てきていることが分かります.

$$\Phi=\dfrac{1}{2}v ^ 2+gx$$

これに質量 $m$ を掛けてあげると,

$$U=m\Phi=\dfrac{1}{2}mv ^ 2+mgx$$

$K=\dfrac{1}{2}mv ^ 2$ は運動エネルギーと呼ばれる項であり, $V=mgx$ は (重力による) 位置エネルギー (ポテンシャルエネルギー)と呼ばれる項です. つまり上で得られた結果を言葉で解釈すれば, 「重力加速度 $g$ で自由落下している質点 $m$ の運動エネルギーと (重力による) 位置エネルギーの和を単位質量あたりに換算したものは時間によらず一定である」ということになります. 特に, (重力による) 位置エネルギーを単位質量あたりに換算したもの (つまり $\Phi$ の第2項 $gx$) を重力ポテンシャルと言います.

注意. これを力学的エネルギー保存則と呼ぶのは勝手なのですが, エネルギー保存則は必ず成立する (というよりも保存するようにエネルギーという物理量を定義する) 一方で, 力学的エネルギー保存則は非保存力が存在するときは成立しません. つまり, 動摩擦力や空気抵抗 (一般には粘性抵抗として扱う) によって力学的エネルギーが熱や音として散逸してしまうのです. この前提条件を正しく理解された上で「力学的エネルギー保存則が現れている」と言うのは良いと思いますが, 「自由落下している質点の運動エネルギーと位置エネルギーの和が保存することを力学的エネルギー保存則という」と安易に理解するのは極めて危険だと思います.

教育目的で書いたので演習問題も付けておこうっと.

1995年 東京医科歯科大学 第1問 一様な川幅 $W$ [m] の北から南に流れる川がある. 川の任意の位置 P 点より西岸, 東岸までの距離をそれぞれ $p$ [m], $q$ [m] としたとき, P 点での流速 $v$ [m/s] は $p$ と $q$ の積に比例し, 川の中央で最も早く $v_0$ [m/s] となるものとする. 図1に示すように, A 地点の真東の対岸の位置を B 地点とし, A 地点から東岸に向けて船を進めるとき, 船の速さは一定 $V$ [m/s] であるとして以下の問に答えよ.
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図1
問1 船を真東に発進させ, そのまま流れに対して常に直角になるように進めた場合,
i) 船を発進させてから東岸に到達するまでの時間を求めよ.
ii) 船の到達する東岸の位置は, B 地点より何メートル下流か.
問2 船を真東よりある角度 $\theta$ だけ上流を目指して発進させ, 常にそのままの角度 $\theta$ を保って進めたところ, 船がついた東岸の位置は B 地点であった.
i) 船は真東より, 何度の角度で上流を目指して発進させたのか. その角度 $\theta$ を求めよ.
ii) 船を発進させてから B 地点に到達するまでに要した時間を求めよ.
問3 船を直線 AB にそって B 地点に到達させる場合に, 岸から見た船の速度はどのようになるか. A 地点からの距離 $a$ [m] の関数として表せ.

公式1が分からないと絶対に解けない問題なので面白いですね.

準備. 東を正向きとして $x$ 軸を, 南を正向きとして $y$ 軸を, 原点が A 地点になるように取る. A 地点を出発する時刻を $t=0$ とする.
流速は条件より $v(x)=kx(W-x)$ と表せ, $x=\dfrac{W}{2}$ で最大値 $v_0=\dfrac{kW^2}{4}$ を取るので, $$v(x)=\dfrac{4v_0}{W^2}x(W-x).$$ この議論から分かるように, 条件「P 点での流速 $v$ [m/s] は $p$ と $q$ の積に比例し, 川の中央で最も早く $v_0$ [m/s] となるものとする」において「P 点での流速 $v$ [m/s] は $p$ と $q$ の積に比例し,」までは出題上の流体力学的モデルなのだから必ず書かれなければならないが, 「川の中央で最も早く $v_0$ [m/s] となる」の「最も早く」という語句は不要である. あるいはこの部分を丸ごと「その最大値は $v_0$ [m/s] となる」と書き換えてもよい.
問1 東岸に到着した時刻を $t=t_1$ とする.
i) $\dot{x}=V$ より $x=Vt$ である. $W=Vt_1$ なので $t_1=\boxed{\dfrac{W}{V}}$.
ii) i) より $\dot{y}=v(x)=\dfrac{4v_0}{W^2}Vt(W-Vt)$ であるから, $$y_1=\int_{0}^{t_1}\dot{y}dt=\dfrac{4v_0}{W^2}\left(-\dfrac{1}{3}V^2t_1^3+\dfrac{1}{2}WVt_1^2\right)=\boxed{\dfrac{2v_0}{3V}W}.$$

妥当性のチェックは次のようにします.

  • 次元が合っている. このことを見やすくするために ii) では $\dfrac{2v_0}{3V}$ という無次元の係数と $W$ という長さの次元を分かち書きしている.
  • $W=0$ でどちらも $0$ であるべき. 実際そうなっている.
  • $W\to\infty$ でどちらも $\infty$ であるべき. 実際そうなっている.
  • $v_0=0$ は「そもそも流れが存在しない」ことを表しているはずなので, $y_1=0$ であるべき. 実際そうなっている.
  • $v_0\to\infty$ は「めちゃめちゃ流れが速い」ことを表しているはずなので, $y_1\to\infty$ であるべき. 実際そうなっている.

ちなみにこの関数形からも分かるように, 船の軌道は原点で接する $3$ 次関数のグラフになります.

問2 東岸に到着した時刻を $t=t_2$ とする.
$\dot{x}=V\cos\theta$ より $t_2=\dfrac{W}{V\cos\theta}$ であり, $y_2=0$ である. $\dot{y}=v(x)-V\sin\theta$ より $$y_2=\dfrac{2v_0}{3V\cos\theta}W-\dfrac{\sin\theta}{\cos\theta}W=0$$ よって $\sin\theta=\dfrac{2v_0}{3V}$ であり, 実際にこの経路が実現したので $\dfrac{2v_0}{3V}\leq1$ が成立しており, $\theta=\boxed{\arcsin\dfrac{2v_0}{3V}}$ である. したがって, $t_2=\boxed{\dfrac{W}{V\sqrt{1-(2v_0/3V)^2}}}$.
注意. 実際に計算するときは「$x$ の速度に関わる項が $V\mapsto V\cos\theta$ になって, $y$ には $-V\sin\theta\cdot t$ の項が付いてくるんだな」と考えて問1の結果を置き換える.
  • 次元が合っている. $t_2$ の分母を払わないのも無次元化することで見やすくするためである.
  • $W=0$ でどちらも $0$ であるべき. 実際そうなっている.
  • $W\to\infty$ でどちらも $\infty$ であるべき. 実際そうなっている.
  • $v_0=0$ では問1と同じ状況のはずなので $t_2=t_1$ かつ $\theta=0$ となっているべき. 実際そうなっている.
  • $v_0\to\infty$ のままだと制御しきれず B 地点よりも下流に流されてしまうはずなので, 負けじと $V\to\infty$ となるべきである. 実際そうなっている.
問3 直線 AB に沿って運動させるには速度が次のような関係を満たしていなくてはならない.
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問3のベクトル図
三平方の定理より, $$\dot{x}=\sqrt{V^2-v(x)^2}=\boxed{\sqrt{V^2-\left(\frac{4v_0}{W^2}x(W-x)\right)^2}}.$$
  • $W=0$ で $V$ であるべき. 実際そうなっている.
  • $v_0=0$ では問1問2と同じ状況のはずなので $\theta=0$ となり $\dot{x}=V$ となるべきである. 実際そうなっている.
  • $v_0\to\infty$ や $W\to\infty$ のままだと制御しきれず直線 AB に沿って運動させることが不可能になるはずなので, 負けじと $V\to\infty$ となるべきである. 実際そうなっている.