空論上の砂、楼閣上の机。

The Castle of Indolence

平衡点のアナロジー

問題. (2005年 千葉医 5-3) 寿命が非常に長いほ乳類1種の個体群について, 1個体が1年間に産む子供の個体数(産子数)$B/N_t$ と, 1個体が1年間あたりに死亡する確率(死亡率)$D/N_t$ について, 個体数 $N_t$ との関係を調べたところ図2のような結果を得た. 今年の個体数が, (1) $20$ 個体未満の場合, (2) $20$ 個体より多く, $100$ 個体より少ない場合, (3) $100$ 個体より多い場合について, 今後個体数はどのように変化すると予測されるか説明しなさい. なお, この個体群では移入と移出はなく, また, 産まれた子供は翌年から繁殖を開始すると仮定する.
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図2
解答. (1) $N_t<20$ では死亡率が産子数を上回っているので単調に減少し有限の時間で $0$ に達し絶滅する. (2) $20 < N_t < 100$ では産子数が死亡数を上回っているので単調に増加し, (3) $N_t>100$ では死亡数が産子数を上回っているので単調に減少するので, どちらも $100$ に収束する.

この図を見た瞬間に思ったのは, 物理学における平衡点の安定性の議論と全く同型であるということでした. たとえば次のような電磁気学的モデルを考えてみましょう.

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電磁気学的モデル

斜面方向に $y$ 軸を取ると, 導体棒に働く電磁気力と重力の斜面方向成分は次のように図示できます.

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斜面方向の力のグラフ

つまり, 産子数を正の方向に働く図のような力, 死亡率をの方向に働く一定の外力だとすれば, $N_t=20$ では仮想変位と同じ向きの力なので(微分係数が正なので)不安定な平衡点で, $N_t=100$ では仮想変位と逆向きの力なので(微分係数が負なので)安定な平衡点となることが分かります. 初速 $0$ で離すと, 初期位置が $20$ 付近なら $20$ とは逆向きに動き, $100$ 付近なら $100$ を振動中心として(ほぼ)単振動をします. これは生物学的な見方と完全に同型の論理ではないでしょうか.


という話をしたら次のような指摘を頂きました.

上記問題は環境収容力 $K=100$, 内的自然増加率 $r\fallingdotseq 1.15$ の場合のロジスティック成長モデル $$\dfrac{dN}{dt}=rN\times\dfrac{K-N}{K}$$ を元にして作成されたグラフでしょう。

そういえばロジスティック方程式なんてものがあったなぁ……!(詠嘆)ただ, この場合は平行移動させて $$\dfrac{dN}{dt}=r(N-20)\left(1-\dfrac{N-20}{K-20}\right)$$ と考えるべきだと思います. このとき, $$\dfrac{d}{dN}\left(\dfrac{dN}{dt}\right)=r\left(1-\dfrac{2(N-20)}{K-20}\right)$$ となり, $N=60$ を境界に正負の符号が変わっていることが確かめられます. $N=20$ では $r>0$ なので確かに不安定で, $N=100$ では $-r<0$ なので確かに安定です.


と書いたところでググってみたら見事 Wikipedia の「ロジスティック方程式」の「平衡状態の安定性」に同じようなことが論じられていて安心しました. やっぱり簡単な力学系は色々と遊ばれ尽くされているはずだったので, 今日も人類の智に対する畏敬の念が深まりました.