空論上の砂、楼閣上の机。

The Castle of Indolence

メネラウス・チェバの定理の逆は成り立たない?

舞台設定

  • 線分 $AB$ の長さを $\overline{AB}$ と書きます.
  • 点 $A_1,\dots,A_n$ が一直線上にあることを, $A_1,\dots,A_n$ が共線であると言います.
  • 直線 $l_1,\dots,l_n$ が一点で交わることを, $l_1,\dots,l_n$ が共点であると言います.
  • 点 $P$, $Q$, $R$ を $△ABC$ の辺 $BC$, $CA$, $AB$ またはそれらの延長上の点とします.
  • 点 $O$ を $△ABC$ の辺 $BC$, $CA$, $AB$ 上にもそれらの延長上にもない点とします.

状況説明

定理1. (Menelaus の定理) $P$, $Q$, $R$ が共線ならば, $$\frac{\overline{BP}}{\overline{PC}}\cdot\frac{\overline{CQ}}{\overline{QA}}\cdot\frac{\overline{AR}}{\overline{RB}}=1.$$

実際これは真なのですが, 逆も真であると説明されることが多いようです. しかし, たとえば $P$, $Q$, $R$ を各辺の中点とすれば, これは明らかな反例です. そこで上手く成り立つように次のように微調整します.

定理2. (Menelaus の定理の “逆”) $P$, $Q$, $R$ のうち $1$ 個または $3$ 個が辺の延長上にあり, かつ $$\frac{\overline{BP}}{\overline{PC}}\cdot\frac{\overline{CQ}}{\overline{QA}}\cdot\frac{\overline{AR}}{\overline{RB}}=1$$ が成り立つならば, $P$, $Q$, $R$ は共線である.
注意. これを巷では「Menelaus の定理の “逆”」と呼んでいるようです. このように定理 $P\Rightarrow Q$ の逆 $Q\Rightarrow P$ は一般に成り立たないものの, 仮定を修正することで成り立つ定理 $R\land Q\Rightarrow P$ を $P\Rightarrow Q$ の “逆” と呼ぶのは初等幾何ではよくある慣習のようです. たとえば円周角の定理の逆は一般に偽ですが, 教科書にある「円周角の定理の逆」は真です. ところが, なぜか中線定理についてだけは「中線定理の逆は成り立たないので注意!」という説明がなされるばかりで, 良くても「ただし作ろうと思えばこういうふうに中線定理の “逆” を作れるよ」という程度に留まるだけのようです. 個人的には意味不明な悪習だと思いますが, 初等幾何は2000年の伝統がある分野なので用語や記法を統一するのが非常に難しいのでしょう. 唯一強制力があるとすれば, それは文部科学省の学習指導要領ぐらいだと思います.

Menelaus の定理とペアで紹介される Ceva の定理は次のようなものです.

定理3. (Ceva の定理) 直線 $AP$, $BQ$, $CR$ が $O$ で交わるならば, $$\frac{\overline{AR}}{\overline{RB}}\cdot\frac{\overline{BP}}{\overline{PC}}\cdot\frac{\overline{CQ}}{\overline{QA}}=1.$$

Ceva の定理の逆は偽です*1.

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Ceva の定理の逆の反例

定理4. (Ceva の定理の “逆”) $P$, $Q$, $R$ のうち $1$ 個または $3$ 個が辺上にあり, かつ $$\frac{\overline{AR}}{\overline{RB}}\cdot\frac{\overline{BP}}{\overline{PC}}\cdot\frac{\overline{CQ}}{\overline{QA}}=1$$ が成り立つならば, $3$ 直線 $AP$, $BQ$, $CR$ は共点である ($1$ 点で交わる).

符号付き長さ

しかしながら, やはり「じゃあ共線条件・共点条件と同値な命題はあるの?」と聞きたくなるのが人の性というものです. ここで定理2と定理4の仮定をよく読んでみると, どうやら奇数個の点が辺上にあるか延長上にあるかで状況が変わってくるのだと理解できます. そこで Miquel の定理が有向角という概念を導入することで統一的に証明できたことを思い出しましょう.

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よくベクトルの内積を「符号付き長さ」という概念を用いて説明することがありますが, それを初等幾何的に表すと次のようになります.

定義5. (符号付き長さ) 同一直線上の相異なる $3$ 点 $A$, $Z$, $B$ に対し, $Z$ が線分 $AB$ 上ならば $\dfrac{AZ}{ZB}=\dfrac{\overline{AZ}}{\overline{ZB}}$ とし, そうでないならば $\dfrac{AZ}{ZB}=-\dfrac{\overline{AZ}}{\overline{ZB}}$ とする.

これを用いれば定理1と定理2, 定理3と定理4が次の形で書き直せることがわかります.

定理6. (Menelaus の定理) $P$, $Q$, $R$ が共線であるための必要十分条件は $$\frac{AR}{RB}\cdot\frac{BP}{PC}\cdot\frac{CQ}{QA}=-1.$$
定理7. (Ceva の定理) 直線 $AP$, $BQ$, $CR$ が共点であるための必要十分条件は $$\frac{AR}{RB}\cdot\frac{BP}{PC}\cdot\frac{CQ}{QA}=1.$$

Menelaus の定理も Ceva の定理も実用上は不要

Menelaus の定理も Ceva の定理も一般的には辺の比を求めるときに用いられるのですが, そのような場合についてはわざわざ大げさな定理を持ち出さなくても簡単に求めることができます. これは中学受験の算数では有名な事実なのですが, なぜか高校数学では無闇矢鱈に「メネラウスの使い方は〜、チェバの使い方は〜」などと教えられることで却って視野狭窄に陥ってしまうことが多いようです. たとえば次の動画に非常によくまとまっているので, 本稿で改めて解説することは致しません.

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アフィン空間

おまけとして, さらに一般化するために舞台をアフィン空間に移して考えます.

定義8. (アフィン空間) 集合 $A$ と体 $K$ 上のベクトル空間 $V$ の組 $(A, V)$ がアフィン空間であるとは, $V$ が加法群として $A$ に自由かつ推移的に作用することをいう.
定義9. (位置ベクトル) $(p,q)\in A^2$ を $p$ を始点, $q$ を終点とする有向線分といい, $q=p+a$ となる $a\in V$ を $p$ を始点とする $q$ の位置ベクトルといい, どちらも $\overrightarrow{pq}$ で表す.
定義10. (独立・従属) $p_0,\dots,p_r\in A$ が独立 (resp. 従属) であるとは, $\overrightarrow{p_0p_1}, \dots, \overrightarrow{p_0p_r}$ が $V$ で線形独立 (resp. 線形従属) であることをいう.
定義11. (部分空間) $V^k\subset V^n$ と $p\in A^k$ に対し, アフィン空間 $$A_p^k=\{q\in A^n\mid q=p+x, x\in V^k\}$$ を $A^n$ の部分空間という. $A^1$ を直線, $A^2$ を平面, $A^{n-1}\subset A^n$ を超平面という. また, $A^r$, $A^s$ を同時に含むあらゆる部分空間の共通部分を $A^{r\ \vee}A^{s}$ と書く.
定理12. (Menelaus の定理) $i$ を $0$ から $r$ までの添字とする. $p_i$ (ただし $p_{r+1}=p_0$) を $A$ の独立な点, $q^i$ を $p_i^{\ \vee}p_{i+1}$ 上の $p_i$, $p_{i+1}$ 以外の任意の点, $\lambda^i$ を $\lambda^i\cdot\overrightarrow{p_iq_i}=\overrightarrow{q_ip_{i+1}}$ をみたす $K$ の元とする. このとき, $q_0,\dots,q_r$ が従属であるための必要十分条件は, $$\lambda^0\cdots\lambda^r=(-1)^{r+1}.$$
定理13. (Ceva の定理) $\sigma_i=q_i^{\ \vee}p_{i+2}{}^{\ \vee}\cdots{}^{\ \vee}p_{i+r}$ とおく (ただし $j\geqq1$ で $p_{j+r}=p_{j-1}$ とする). $\sigma_0,\dots,\sigma_r$ が $1$ 点を共有するための必要十分条件は, $$\lambda^0\cdots\lambda^r=1.$$

参考文献

Chen, E. (2016). Euclidean geometry in mathematical olympiads. Mathematical Association of America.
日本数学会. (2007). 『岩波数学辞典 第4版』. 岩波書店.

*1:これに「無限遠点では交わる」と反論するのはある意味では正しいのですが, 普通の初等幾何では無限遠点を陽に持ち出すことはないので成り立たないと考えるべきでしょう.