空論上の砂、楼閣上の机。

The Castle of Indolence

コンデンサーについての所感

最近, 家庭教師の準備でコンデンサーなど物理を頑張っていたのですが, 色々と思うところがあったので適宜メモしておきます.

Gauss の法則

まず Gauss の法則を電気力線の本数に帰着させている参考書が多くて非常に困る. おそらく『新・物理入門』の孫引きなのかもしれないが, 率直に申し上げればこれは害悪である. 任意の閉曲面 $S$ に対して $$\int_{S}\bm{E}\cdot\bm{n}\ dS = \frac{Q}{\varepsilon_0}$$ が成り立つということは電磁気学の基礎方程式 (Maxwell 方程式) の一つであり, 正しく使えばコンデンサーの問題を解く上でも使いやすいという実践上の意義がある. Coulomb の法則はあくまでも Gauss の法則を点電荷に適用したものであり, たしかに静電場においては Coulomb の法則と重ね合わせの原理が Gauss の法則と等価であるというのも大事な事実ではあるが, 何やら電気力線などという19世紀の遺物をあたかも物理学の基礎法則に組み込んでいるように説明するのは, 個人的に嫌いである. 本当は

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の「著者からのメッセージ」にあるように, Coulomb の法則から電磁気学の説明を始めるのは高校レベルでも止めるべきだと思うが, 私はそこまで強い主張を他人に押し付けたくもない上にそのことで自分が得をすることもないので, 親しい人に教えるときにだけ最初から Maxwell 方程式の定性的な説明と Lorentz 力の表式をセットで提示することにしている. これは全体像が見渡せるという単純な効果に留まらないのだが, それは

  • Gauss の法則
    • コンデンサー $C$
    • Drude モデル→抵抗 $R$
  • Ampère の法則
    • コイル $L$
  • 電磁誘導
    • Lorentz 力の成分
    • Faraday の法則

という見取り図ができるからである.

平行板コンデンサー

さて, 話を戻そう. まず無限に広い平面上に一様に分布した電荷が作る電場が $\dfrac{\sigma}{2\varepsilon_0}$ となるのは割と有名な Gauss の法則の適用例として知られているようだが, 平行板コンデンサーの作る電場が $\dfrac{\sigma}{\varepsilon _ 0}$ となることも同様に示せることが記述されているのはお目にかかったことがない. さらにより一般的に, 導体表面からも同じように電場 $E=\dfrac{\sigma}{\varepsilon _ 0}$ が出ることも容易に示せるので, もし電場が分かっていれば導体表面に分布する電荷が $Q=\varepsilon _ 0SE$ で機械的に求まってしまうこともわかる.

また, たとえば帯電させていないコンデンサーを何枚か重ねて近づけるとき, すべてのコンデンサーを取り囲むように閉曲面をとって Gauss の法則を適用すると, 孤立系の電荷保存則より電場の正味の湧き出し量は $0$ であるから, 導体外部に分布する電荷は $\varepsilon_0 S \cdot 0=0$ である. あとは引き続き孤立系の電荷保存則や, 導線があったら等電位であること, 電場が極板の一方から湧き出したら他方の極板に吸い込まれること (したがって分布する電荷は互いに逆符号であること) などをボチボチと適用していけばよい.

静電エネルギー

おそらく普通の高校生にとっては静電エネルギーとポテンシャルエネルギーの区別などつくわけがないと思う. どちらも $U$ で記号の濫用をしているせいで $U=qV$ かつ $U=\dfrac{1}{2}QV$ という一見矛盾した状況が生じているのだが, これに対処しないとそもそも問題が解けない (たぶん $q$ は粒子レベルのミクロな電荷, $Q$ はコンデンサーのマクロな電荷として書き分けている). ところがなぜ記号の濫用をするかというと, それは「静電エネルギーはポテンシャルエネルギーをある特殊な方法で足し上げて定義した物理量だから」である. したがってポテンシャルエネルギーは粒子レベルで定義されるが, 静電エネルギーは電荷分布全体に, あるいは現代的には場に定義されている.

誤解を恐れずに言えば, もし電荷分布全体に定義されているという高校物理的な立場を強調するのなら $$U=\sum _ {i<j} k _ 0\dfrac{Q _ i Q _ j}{r _ {ij}}$$ となるが, 場に定義されているという現代物理学的な立場を強調するのなら $$U=\int\dfrac{1}{2}\varepsilon _ 0\bm{E} ^ 2 dxdydz$$ となる. したがって, 静電エネルギー密度を用いて問題を解くのは決して裏技ではなく, むしろ正統な方法とさえ言うことができる.

エネルギー収支と静電気力

働いている静電気力 (たとえば極板間引力や誘電体の引き込み力) を $F$, それに釣り合わせる外力を $F_{\text{ex}}$ とおくと, 作用反作用の法則により $F=-F _ {\text{ex}}$ が成り立つ.

電荷が一定のとき

たとえばスイッチを開いて電池を切り離すとき, 孤立系の電荷保存則より $Q$ が一定となるので, Gauss の法則より $E=\dfrac{Q}{\varepsilon_0S}$ から $E$ が一定なので, 静電エネルギー密度 $\dfrac{1}{2}\varepsilon _ 0E ^ 2$ が一定なので, 極板間距離 $d$ を広げると静電エネルギーは大きくなる.

このときエネルギー収支は $$dU=F _ {\text{ex}}dx$$ より $$F=-\dfrac{dU}{dx}$$ である.

電圧が一定のとき

たとえばスイッチを閉じて一定の起電力をもつ電池を繋げると, Kirchoff の第2法則より $V$ が一定なので静電エネルギーは $\dfrac{1}{2} \varepsilon _ 0\left(\dfrac{V}{d}\right) ^ 2\times Sd=\dfrac{\varepsilon _ 0SV ^ 2}{2d}$ となり極板間距離 $d$ を広げると静電エネルギーは小さくなる. これは一定の電圧を保つために電場を小さくする必要があるため $Q$ が減るからである.

このときエネルギー収支は $$dU=F _ {\text{ex}}dx+VdQ=F _ {\text{ex}}dx+2dU$$ である. ただし $VdQ=2dU$ は $U=\dfrac{1}{2}QV$ だからである. したがって, $$dU=-F _ {\text{ex}}dx$$ なので $$F=+\dfrac{dU}{dx}$$ である.

合成容量

電荷 $Q$ が溜まったコンデンサー間の電位差が $V$ であるとき, 静電容量 $C$ を $$C=\dfrac{Q}{V}$$ として定義する.

  • 極板の形状・配置・位置関係
  • 極板中の物質分布
  • 物質の電気的性質(誘電率)

を定めると, Poisson 方程式の解の一意性から $C$ は $V$, $Q$ によらず一定であることがわかる. たとえば平行板コンデンサーの場合 $$C=\dfrac{Q}{V}=\dfrac{\varepsilon _ 0SE}{Ed}=\varepsilon _ 0\dfrac{S}{d}$$ と計算できるが, これはたしかに上の三つの性質のみで決まっている.

思うに, 高校物理は静電容量に頼りすぎである. たとえば “静電容量の合成公式” などと称して, 並列の場合は $C=C _ 1+C _ 2$, 直列の場合は $\dfrac{1}{C}=\dfrac{1}{C_1}+\dfrac{1}{C_2}$ と覚えさせることが多いようだが, こんなものを覚えたところでしょうがないというのが個人的な感想である. なぜなら, 少なくとも直列の場合は (抵抗 $R$ とは違って) 成り立たない場合が平然とあるからだ. なぜなら直列の場合というのは $$V=\dfrac{Q_1}{C_1}+\dfrac{Q_2}{C_2}$$ においてもし仮に $Q_1=Q_2$ であれば $$V=\left(\dfrac{1}{C_1}+\dfrac{1}{C_2}\right)Q$$ となるから成り立つ, というものなのだ. しかし, 当たり前であるが, $Q_1=Q_2$ という仮定は別に一般的に成り立つものでは全くない. しかも合成容量の公式を覚えて振り回したところで, 物理的実体が何か掴めたわけでもない. 教育的にも実践的にも役に立たないというのが現実なのではないか.