空論上の砂、楼閣上の机。

The Castle of Indolence

ドリフト

電磁場中における質量 $m$, 電荷 $q$ の荷電粒子の運動を考察する. 断りのない限り, $q$ は正負いずれの値も取りうるものとする. 磁束密度 $\vec{B}$ は, 時間的に変化することはないとする. また, 磁束密度 $\vec{B}$ の向きは, 図1のように紙面の裏から表の向きであり, この向きを $z$ 軸の正の向きとし, 荷電粒子は $xy$ 平面内を運動するものとする. なお, 荷電粒子は真空中を運動するものとし, また, 重力の影響は無視できるものとする.

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図1

注. 素粒子の運動については, 電磁気力に比べると重力の影響を無視できることが多い. たとえば電子 $m=9.1\times10^{-31}\text{kg}$, $-e=-1.6\times10^{-19}\text{C}$ では $mg\sim10^{-29}\text{N}$ だが, 実験室で通常用いられる程度の電磁場であれば, $eE,evB\sim10^{-14}\text{N}$ となる.

〔A〕磁束密度の大きさ $B_0$ の一様な磁場中で, 荷電粒子が速さ $v_0$ で $xy$ 平面上の等速円運動を行なっているとする. なお, 設問〔A〕では, 電場はかかっていないものとする. 以下の問に答えよ.

(a) 円運動の半径 $r_0$ を, $m$, $|q|$, $B_0$, $v_0$ のうち必要なものを用いて表せ.

解答. $m\dfrac{v_0^2}{r_0}=|q|v_0B_0$ より $r_0=\boxed{\dfrac{mv_0}{|q|B_0}}$.
注. この円運動をサイクロトロン運動といい, 中心を案内中心, 半径を Larmor 半径という. また, 振動数 $\Omega=\dfrac{|q|B}{m}$ を (プラズマ物理学の慣習として) サイクロトロン振動数, または Larmor 振動数という.

(b) 荷電粒子の速度の $x$, $y$ 成分をそれぞれ $v_x$, $v_y$ とし, 荷電粒子が受ける力の $x$, $y$ 成分をそれぞれ $F_x$, $F_y$ とする. $F_x$ および $F_y$ を, $q$, $|q|$, $B_0$, $v_x$, $v_y$ のうち必要なものを用いてそれぞれ表せ.

解答. $$\begin{aligned}\begin{pmatrix}F_x\\F_y\\F_z\end{pmatrix}&=q\begin{pmatrix}v_x\\v_y\\v_z\end{pmatrix}\times\begin{pmatrix}0\\0\\B_0\end{pmatrix}\\&=\begin{pmatrix}\boxed{qv_yB_0}\\\boxed{-qv_xB_0}\\0\end{pmatrix}\end{aligned}$$
注. 本来はここから得られる運動方程式を解くことで (a) のように円運動をすることがわかる. すなわち, $$\begin{cases}\dot{v_x}=\Omega v_y\\\dot{v_y}=-\Omega v_x\end{cases}$$ なので, 初期条件を $t=0$ で $x_0=y_0=v_x=0$, $v_y=v_0$ とすると, $q>0$ のとき, $$\left(x-\frac{v_0}{\Omega}\right)^2+y^2=\left(\dfrac{v_0}{\Omega}\right)^2$$ という円軌道となる.

〔B〕次に, 磁束密度の向きは $z$ 軸の正の向きのまま, $y\geqq0$ では磁束密度の大きさが $B_0$, $y<0$ では磁束密度の大きさが $2B_0$ であるとする. なお, 設問〔B〕でも, 電場はかかっていないものとする.
時刻 $t=0$ において, 荷電粒子が原点 $\text{O}$ を $y$ 軸の正の向きに速さ $v_1$ で通過した. $n$ を正の整数として, 荷電粒子が $t>0$ で $n$ 回目に $x$ 軸を横切る時刻 (すなわち $y$ 座標がゼロとなる時刻) を $t_n$, その時の $x$ 座標を $x_n$ と書くことにする. 以下の問に答えよ.

(c) $m$, $q$, $|q|$, $v_1$, $B_0$ のうち必要なものを用いて, $t_1$, $t_2$, $x_1$ および $x_2$ を表せ.

解答. $B=\begin{cases}B_0&(y\geqq0)\\2B_0&(y<0)\end{cases}$ とおくと, 荷電粒子は直径 $\dfrac{2mv_1}{|q|B}$ の半円を時間 $\pi\dfrac{m}{|q|B}$ ごとに動くことがわかる.
  • $t_1=\boxed{\pi\dfrac{m}{|q|B_0}}$
  • $t_2=t_1+\pi\dfrac{m}{2|q|B_0}=\boxed{\dfrac{3}{2}\pi\dfrac{m}{|q|B_0}}$
$q>0$ のとき,
  • $x_1=\boxed{\dfrac{2mv_1}{qB_0}}$
  • $x_2=x_1-\dfrac{2mv_1}{2qB_0}=\boxed{\dfrac{mv_1}{qB_0}}$
となり, これは $q<0$ でも成立している.

(d) 荷電粒子の $y$ 座標のとりうる最大値および最小値を, $m$, $v_1$, $q$, $|q|$, $B_0$ のうち必要なものを用いて表せ. さらに, 解答欄のグラフに, $q>0$ の場合の $0\leqq t\leqq t_1$ の間の荷電粒子の軌跡 (半円) が記されている. これにひきつづき, $t_1<t\leqq t_5$ の間の荷電粒子の軌跡の概形を解答欄のグラフに描き加えよ.

解答. 最大値: $\boxed{\dfrac{mv_1}{|q|B_0}}$, 最小値: $\boxed{-\dfrac{mv_1}{2|q|B_0}}$.
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〔C〕次に, $z$ 軸の正の向きの磁場に加えて, 電場もある場合を考える. 設問〔C〕では, 磁束密度は一様で大きさ $B_0$ とする. 他方, 電場は $y$ 軸の正の向きを向いており, 一様で大きさ $E_0$ とする. 時刻 $t=0$ において, 荷電粒子は原点 $\text{O}$ に静止しているとする. ここで, 時刻 $t$ における荷電粒子の速度の $x$, $y$ 成分を, それぞれ $v_x$, $v_y$ と表すこととする. 以下の問に答えよ.

(e) 時刻 $t$ において, 荷電粒子が受ける力の $x$, $y$ 成分をそれぞれ $F_x'$, $F_y'$ とする. $F_x'$ および $F_y'$ を, $q$, $|q|$, $v_x$, $v_y$, $E_0$, $B_0$ のうち必要なものを用いてそれぞれ表せ.

解答. $$\begin{aligned}\begin{pmatrix}F_x'\\F_y'\\F_z'\end{pmatrix}&=q\left(\begin{pmatrix}0\\E_0\\0\end{pmatrix}+\begin{pmatrix}v_x\\v_y\\v_z\end{pmatrix}\times\begin{pmatrix}0\\0\\B_0\end{pmatrix}\right)\\&=\begin{pmatrix}\boxed{qv_yB_0}\\\boxed{qE_0-qv_xB_0}\\0\end{pmatrix}\end{aligned}$$

(f) ある速さ $v_2$ で $x$ 軸の正の向きに等速度運動する観測者から見た場合には, 荷電粒子の運動が等速円運動に見える. $m$, $q$, $|q|$, $E_0$ および $B_0$ のうち必要なものを用いて $v_2$ を表せ.

解答. $x$ 軸正方向に $v_2=\dfrac{E_0}{B_0}$ で移動する座標系では $F_y'=-q(v_x-v_2)B_0$ となるので等速円運動に見える.
注. これをドリフト速度といい, 一般には ${\bm{v}}_d=\dfrac{\bm{E}\times\bm{B}}{B^2}$ で表される. これは荷電粒子の持つ性質に依存しない定数である.

(g) $q>0$ の場合と $q<0$ の場合のそれぞれにつき, 時刻 $t=0$ からしばらくの間の, 静止した観測者から見た荷電粒子の軌跡の概形として, もっともふさわしいものを, 図2の選択肢①〜⑩からそれぞれ1つずつ選べ.

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図2

解答. 初速度が $\bm{0}$ なのでエネルギー保存則から $y=0$ となる位置では速度が $\bm{0}$ であることがわかるので①〜④に絞られる. 電場は $y$ 軸正方向を向いているため, $q>0$ のとき最初は $y$ 軸正方向に運動することで磁場からは $x$ 軸正方向の力を受けて運動を始めるからであり, $q<0$ のとき最初は $y$ 軸負方向に運動することで磁場からは ( $q<0$ に注意して) $x$ 軸正方向の力を受けて運動を始めるからである.
注. この軌跡はサイクロイドである. そのことは単純に微分方程式を解いて $$\begin{cases}x = \dfrac{mE_0}{qB_0^2}(\omega t - \sin\omega t)\\y = \pm\dfrac{mE_0}{qB_0^2}(1 - \cos\omega t)\end{cases}$$ と導出してもよいし, あるいはそもそも「ある慣性系で円運動に見えるものは, 並進移動する慣性系だとサイクロイドに見える (それこそがサイクロイドの幾何的な定義に他ならない)」と考えて選んでもよい.

(h) $q>0$ の場合を考える. 荷電粒子の $y$ 座標のとりうる最大値は $y _ {\text{max}}$ は, (f) で求めた $v_2$ を用いて下記のようになる. 空欄 $\boxed{(ア)}$ に当てはまる数式を $m$, $q$, $E_0$, $B_0$ のうち必要なものを用いて表せ. $$y _ {\text{max}}=\boxed{(ア)}\times v_2$$ また, 静止した観測者から見た場合に, $t>0$ において最初に $y=0$ となるときの $x$ 座標の絶対値 $x _ {\text{C}}$ は, 下記のように $y _ {\text{max}}$ の定数倍となっている. 空欄 $\boxed{(イ)}$ を埋めよ. $$x _ {\text{C}}=\boxed{(イ)}\times y _ {\text{max}}$$

解答. $y _ {\text{max}}$ は (f) の座標系で見られる円運動の直径なので $y _ {\text{max}}=\boxed{\dfrac{2m}{qB_0}}\times v_2$ であり, $x _ {\text{C}}=2\pi\dfrac{m}{qB_0}v_2=\boxed{\pi}\times y _ {\text{max}}$ である.

(i) 引き続き $q>0$ の場合を考える. 静止した観測者から見た場合に, 時刻 $t=0$ からしばらくの間の荷電粒子の運動エネルギーの変化の様子としてもっともふさわしいものを, 図3の選択肢①〜④から選べ. ただし, 図3の横軸にある $T_1$ は, 荷電粒子の $y$ 座標が $t>0$ で最初にゼロとなる時刻を表す. さらに, 図3に示した縦軸の運動エネルギー $K_1$ の値を $m$, $q$, $E_0$, $y_{\text{max}}$ のうち必要なものを用いて表せ. なお, 選択肢④では, 運動エネルギーは充分長い時間の経過ののち, $K_1$ に達するものとする.

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図3

解答. 周期的な運動なので①か②であり, その速さは常に連続なので微分不可能な点を含む①は不適であり, が適切である. エネルギー保存則より $K_1=\boxed{qE_0y_{\text{max}}}$ である.
注. $K=qE_0y=\dfrac{1}{2}qE_0y_{\text{max}}(1-\cos\omega t)$ である.