空論上の砂、楼閣上の机。

The Castle of Indolence

2次方程式の解の公式と対称性

$2$ 次方程式 $ax ^ 2+bx+c=0$ の解を求める際は一般的に平方完成をするのですが, これは些かテクニカルなきらいがあり, なぜそのような発想になるのかが一見すると自明ではありません. しかしながら, この方程式を解くことは実はある種の対称性と関係しており, それを考えることで判別式が自然な形で導入でき, さらには古典的な Galois 理論への小さな一歩にもなる発想を含んでいることを紹介します.

まず $ax ^ 2+bx+c=0$ が異なる二解 $\alpha$, $\beta$ を持つとします. このとき, 操作「$\alpha$ と $\beta$ を入れ替える」を考えることができます. ここで, 解と係数の関係により $$\alpha+\beta=-\frac{b}{a},\ \alpha\beta=\frac{c}{a}$$ となりますが, よく見るとこれは操作に対して不変であることがわかります. とすると, 係数は操作に対し不変だが, 求めたい解は操作に対し不変でないことになります. しかし残念ながら四則演算ではこの対称性は崩せそうにありません. ではどうやってこの対称性を崩せばよいのでしょうか?

いま $\alpha+\beta$ の値はわかっており, それは操作に対し不変でした. ここでもし $\alpha-\beta$ の値がわかれば加減によって $\alpha$ と $\beta$ の値がわかりますが, これは操作に対し不変ではありません. ところが $(\alpha-\beta) ^ 2$ は不変であり, これは計算すると $$(\alpha-\beta) ^ 2=(\alpha+\beta) ^ 2-4\alpha\beta=\frac{b ^ 2-4ac}{a ^ 2}$$ となります. このような実数 $\alpha-\beta$ が存在する条件は ($a\neq 0$ より $a ^ 2>0$ であることに注意すると) $\boxed{b ^ 2-4ac\geqq0}$ に他なりません. 等号が成り立つとき $\alpha=\beta$ となり, とくにこれを重解と呼びます. したがって, 左辺の符号によってこの方程式がどのように解を持つかが完全に分類されてしまうことがわかるので, $D\coloneqq b ^ 2-4ac$ をこの方程式の判別式と呼びます.

$D\geqq 0$ のとき両辺のルートが取れて $\alpha-\beta=\pm\dfrac{\sqrt{D}}{a}$ なので結局解は $$x=\frac{-b\pm\sqrt{D}}{2a}$$ となります. これがいわゆる解の公式です.

なお, 当然ながら $D=b ^ 2-4ac=a ^ 2(\alpha-\beta) ^ 2$ であり, これはよく考えると定義から当たり前なのですが, 現在一般的な導出ではせいぜい準公式という扱いがいいところになっています. しかし, 一般の $n$ 次方程式の判別式を定義する際にはこのような方式を取るのが普通であり, 「たまたま $b ^ 2-4ac$ が解の様子を司っている」と認識しているだけではどうしても面食らってしまいます. もちろん平方完成は自然で重要なテクニックなのですが, 同時にこのような対称性が背後にあることに気付けると方程式論がもっと身近に見えてくるでしょう.