空論上の砂、楼閣上の机。

The Castle of Indolence

ダイアモンドの二項演算 (AMC 10A 2016 #23・USA TSTST 2019-1)

問題1. (AMC 10A 2016 #23) A binary operation $\operatorname{\diamondsuit}$ has the properties that $a\operatorname{\diamondsuit}(b\operatorname{\diamondsuit}c) = (a\operatorname{\diamondsuit}b)\cdot c$ and that $a\operatorname{\diamondsuit}a=1$ for all nonzero real numbers $a$, $b$, and $c$. (Here $\cdot$ represents multiplication). The solution to the equation $2016\operatorname{\diamondsuit}(6\operatorname{\diamondsuit}x)=100$ can be written as $\dfrac{p}{q}$, where $p$ and $q$ are relatively prime positive integers. What is $p+q?$
解答. $b = c$ とすると $(a\operatorname{\diamondsuit}b) \cdot b = a\operatorname{\diamondsuit}(b\operatorname{\diamondsuit}b) = a\operatorname{\diamondsuit}1 = a\operatorname{\diamondsuit}(a\operatorname{\diamondsuit}a) = (a\operatorname{\diamondsuit}a) \cdot a = a$ より $a\operatorname{\diamondsuit}b=\dfrac{a}{b}$ となり, これは除法に他ならない. 計算すると $x=\dfrac{25}{84}$ なので $p+q=\boxed{109}$ である.

これを一般化したのが次の問題です.

問題2. (USA TSTST 2019-1) Find all binary operations $\operatorname{\diamondsuit}\colon \R_{>0}\times\R_{>0}\to\R_{>0}$ (meaning $\operatorname{\diamondsuit}$ takes pairs of positive real numbers to positive real numbers) such that for any real numbers $a, b, c > 0$,
  • the equation $a\operatorname{\diamondsuit}(b\operatorname{\diamondsuit}c)=(a\operatorname{\diamondsuit}b)\cdot c$ holds; and
  • if $a\geq1$ then $a\operatorname{\diamondsuit} a\geq1$.

これを去年の九月に同級生に教えられ一年ほど折に触れて考えたのですが, Evan Chen 氏による解説を読んでも全く分からず, 今日ようやく数研の先輩と議論を重ねてやっと整理できたので記事にしました.

補題3. 1番目の条件が成り立つことと, ある完全乗法的な対合 $f$ が存在して $a\operatorname{\diamondsuit}b=af(b)$ となることは同値である.
注. 写像 $f$ が完全乗法的であるとは, $f(1)=1$ かつ $f(ab)=f(a)f(b)$ が成り立つことをいう. 対合 $f$ とは $f\circ f=\operatorname{id}$ が成り立つ写像のことをいう.
証明. 次の性質が成り立つ:
  1. $a\operatorname{\diamondsuit}p=a\operatorname{\diamondsuit}q\implies p=q$.
  2. $a\operatorname{\diamondsuit}1=a$.
  3. $1\operatorname{\diamondsuit}(1\operatorname{\diamondsuit}a)=a$.
  4. $a\operatorname{\diamondsuit}b=a\cdot(1\operatorname{\diamondsuit}b)$.
実際, 1. は $(a\operatorname{\diamondsuit}a)\cdot p=a\operatorname{\diamondsuit}(a\operatorname{\diamondsuit}p)=a\operatorname{\diamondsuit}(a\operatorname{\diamondsuit}q)=(a\operatorname{\diamondsuit}a)\cdot q$ から従い, 2. は $a\operatorname{\diamondsuit}(a\operatorname{\diamondsuit}1)=(a\operatorname{\diamondsuit}a)\cdot 1=a\operatorname{\diamondsuit}a$ から従い, 3. は $1\operatorname{\diamondsuit}(1\operatorname{\diamondsuit}a)=(1\operatorname{\diamondsuit}1)\cdot a=a$ から従い, 4. は $a\operatorname{\diamondsuit}b=a\operatorname{\diamondsuit}(1\operatorname{\diamondsuit}(1\operatorname{\diamondsuit}b))=(a\operatorname{\diamondsuit}1)\cdot(1\operatorname{\diamondsuit}b)=a\cdot(1\operatorname{\diamondsuit}b)$ から従う.
ここで $f(b)=1\operatorname{\diamondsuit}b$ とおくと, 3. より対合であり, 2. より $f(1)=1$ であり, 1番目の条件より $af(b\operatorname{\diamondsuit}c)=af(b)c$ であるから $f(bf(c))=f(b)c=f(b)f(f(c))$ なので完全乗法的である.
逆に, このような $f$ はすべて1番目の条件を満たしている.

解法1

補題4. 加法的だが線形でない写像 $g\colon\R\to\R$ は $\R^2$ 内で稠密である.
証明. $g$ は加法的なので任意の有理数 $q$ に対し $g(q)=qg(1)$ が成り立つ. ここで $g(1)\neq1$ のときは以下に示す方法を少し工夫すれば示せるので $g(1)=1$ とする. $g$ が線形でないのである無理数 $\alpha$ と実数 $\delta\neq0$ が存在して $g(\alpha)=\alpha+\delta$ となる.
ここで任意の中心 $(x,y)$, 半径 $r$ の円 (ただし $x\neq y$ かつ $x,y\in\mathbb{Q}$) の中に $g$ の点があることを示せばよい. $\beta=\dfrac{y-x}{\delta}\neq0$ とすると有理数の稠密性から $|\beta-b|<\dfrac{r}{2|\delta|}$ なる有理数 $b\neq0$ が存在し, また $|\alpha-a|<\dfrac{r}{2|b|}$ なる有理数 $a\neq0$ が存在する. このとき点 $(X,Y)=(x+b(\alpha-a),g(X))$ は先の円の内部にある. 実際,
  • $|X-x|=|b(\alpha-a)|<\dfrac{r}{2}$.
  • $Y=g(x+b(\alpha-a))=g(y-\delta\beta)+bg(\alpha)-bag(1)=y-\delta\beta+b(\alpha+\delta)-ba=y+b(\alpha-a)-\delta(\beta-b)$ より $|Y-y|\leq |b(\alpha-a)|+|\delta(\beta-b)| < r$.
となっている.
解答. 2番目の条件は $f(x)\geq1/x\;(x\geq1)$ と同じである. $g(t)=\log{f(e^t)}$ とおくとこれは加法的であり, 先の条件は $g(t)\geq -t\;(t\geq0)$ となる. したがって $g$ は稠密ではない加法的写像なので補題4より線形であり, $g(1)=r$ とすると $f(e^t)=e^{g(t)}=e^{rt}$ より $f(x)=x^r$ となり, 対合であるための必要十分条件は $f(f(x))=x^{(r^2)}=x$ より $r=\pm1$ である. これは乗法と除法に他ならない.

解法2

補題5. 任意の正数 $a$ に対し $f(a)\in\{a,1/a\}$ である.
証明. $a\operatorname{\diamondsuit}b=af(b)$ において $b>1$ の場合に成り立つことを示せばよい. なぜならば, $b=1$ の場合はすでに示されており, $b<1$ の場合は $1/b>1$ であるから, $f(b)f(1/b)=1$ が成り立つことに注意すると, $f(1/b)\in\{b,1/b\}$ なら $f(b)\in\{b,1/b\}$ であることも従うからである. いま $a=f(b)\geq 1/b$ とすると示すべきことは $a=b$ または $a=1/b$ が成り立つことになる. $ab=1$ ならば $f(b)=1/b$ が言えているのでよい. $ab>1$ の場合は, $a=b$ となることを証明する. ここで整数 $m$, $n$ が $a^nb^m\geq 1$ を満たすならば $$a^{m} b^{n}=f(b)^{m} f(a)^{n}=f\left(a^{n} b^{m}\right) \geq \frac{1}{a^{n} b^{m}}$$ すなわち $(a b)^{m+n} \geq 1$ が成り立つ. したがって, この対偶をとり, それぞれ $ab>1$, $b>1$ で対数をとれば, 任意の整数 $m$, $n$ に対し $m+n<0\implies n\log_b{a}+m<0$ が成り立つ. ここで $m=-1-n$ とすると前件は恒等的に真であり, 後件は $n(\log_{b}{a}-1)<1$ となる. もし $\log_{b}{a}-1\neq0$ ならその正負に応じて $n\to\pm\infty$ のどちらかで不等式が破れるので $\log_b{a}-1=0$ すなわち $a=b$ となる.
補題6. $f$ は連続である.
証明. $g(t)=\log{f(e^t)}$ が連続であることを示せば十分であり, 補題5から $f(e^{t-s})=e^{\pm|t-s|}$ より $$|g(t)-g(s)|=\left|\log f\left(e^{t-s}\right)\right|=|t-s|$$ を得るので $g$ は Lipschitz 連続である.
注. 関数 $f(x)$ が Lipschitz 連続であるとは, 任意の $x_1$, $x_2$ に対して $|f(x_1)-f(x_2)|\leq k|x_1-x_2|$ を満たすような定数 $k$ が存在することをいい, Lipschitz 連続なら連続であることが知られている.
解答. もし $f(x)\equiv x$ または $f(x)\equiv 1/x$ ならば問題ない. ここで $f(a)=a$ かつ $f(b)=1/b$ となるような $a,b\neq1$ が存在するとしたら, $f(1/x)=1/f(x)$ を用いて必ず $a,b>1$ とできるのでそう仮定して一般性を失わない. よって $f(a)>1$ かつ $f(b)<1$ となり, $f$ が連続なことから, $a$ と $b$ の間で中間値の定理を用いると $f$ の単射性に矛盾する.
注. ここで Lipschitz 連続性は本質的でない. 本質は「たとえば $f(2)=2$ の場合であれば, 有理数 $q$ に対して $f(2^q)=2^q$ であり, 任意の $x\neq 1$ に対して, $2^q$ が $x$ にいくらでも近くなるように有理数 $q$ を取ると, 任意の精度で $f(x)/2^q\sim 1$ とできるので $f(x)=1/x$ の可能性が除外できる」ということである.