空論上の砂、楼閣上の机。

The Castle of Indolence

群論としてのIMO2019第4問

  • スマホで見る際は長い数式を適宜スクロールしてください.
  • $v_p(n)$: $n$ の $p$ 進付値

数学オリンピックなんてくだらない高等遊戯だと今までずっと思っていましたが、この問題の背景は「めちゃめちゃ面白いやん」となりました。

IMO2019 第4問 以下をみたす正の整数の組 $(k,n)$ をすべて求めよ:
$$ k! = (2^n-1)(2^n-2)(2^n-4)\cdots(2^n-2^{n-1}).$$
命題 $q$ を素べきとする.
$$ \vert \operatorname{GL} _ {n}({\mathbb {F}} _ {q})\vert =\prod _ {{k=1}} ^ {n}(q ^ {n}- q ^{k-1})$$
証明. $\mathbb{F}_p^n$ の列ベクトルを線型独立となるよう取っていく選び方を数えると, 最初は零でなければよいので $q^n-1$ 通り, $1\leqq k\leqq n$ 番目ではそれまでの $k-1$ 個の列ベクトルと線型独立になるよう取らなければならないので $q^n-q^{k-1}$ 通りである. $\blacksquare$

よって, 問題の方程式は $$\vert S_k\vert = \vert \operatorname{GL} _ {n}({\mathbb {F}} _ {2})\vert$$ と書き換えることができる. これは $S_k\cong\operatorname{GL} _ {n}({\mathbb {F}} _ {2})$ となる $(k,n)$ の候補を与える方程式になっている.

実際に計算してみよう.

補題. $n\geqq 6$ で次が成立: $$2^{n^2}\lt\left(\frac{n(n-1)}{2}\right)!$$
証明. 略.
解答.
$$v_2(\vert \operatorname{GL} _ {n}({\mathbb {F}} _ {2})\vert) =1+\cdots+n=\dfrac{n(n-1)}{2}$$
$$v_2(\vert S_k\vert)=k!$$ であるから, $\vert S_k\vert = \vert \operatorname{GL} _ {n}({\mathbb {F}} _ {2})\vert$ なら $$\dfrac{n(n-1)}{2}\lt k.$$ また, $$\vert \operatorname{GL} _ {n}({\mathbb {F}} _ {2})\vert\lt (2^{n})^n$$であるから, 補題より $n\geqq6$ で
$$\vert \operatorname{GL} _ {n}({\mathbb {F}} _ {2})\vert\lt (2^n)^n\lt k!=\vert S_k\vert$$
を得るので $\vert S_k\vert = \vert \operatorname{GL} _ {n}({\mathbb {F}} _ {2})\vert$ は成立しない. $n\lt 5$ を適宜調べれば $(k,n)=(1,1),(3,2)$ が得られる.
定理. $S_1\cong\operatorname{GL}_1(\mathbb{F}_2)$, $S_3\cong\operatorname{GL}_2(\mathbb{F}_2)$
証明. 前者は $\operatorname {GL} _{2}(\mathbb {F} _{2})=\{(1)\}$ なのでよい. 後者は
$${\displaystyle \operatorname {GL} _{2}(\mathbb {F} _{2})=\left\{{\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}},\ {\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}},\ {\begin{pmatrix}0&1\\1&1\end{pmatrix}},\ {\begin{pmatrix}1&0\\1&1\end{pmatrix}},\ {\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}},\ {\begin{pmatrix}1&1\\1&0\end{pmatrix}}\right\}}$$
を適宜対応させればよい. $\blacksquare$

$(k,n)=(8,4)$ のとき左辺は右辺の2倍であることがわかりますが, $|A_n|=|S_n|/2$ であることを考えると $A_8\cong \operatorname{GL} _ 4(\mathbb{F} _ 2)$ が仄めかされており, 実際そうなります. 面白い.

略証. $A_7\subset \operatorname {GL} _{4}(\mathbb {F} _{2})$ で $[\operatorname {GL} _{4}(\mathbb {F} _{2}):A_7]=8$ である. ここで $\operatorname {GL} _{4}(\mathbb {F} _{2})$ から $S_7$ への準同型が定めると, $\operatorname {GL} _{4}(\mathbb {F} _{2})$ が単純群であるから $\operatorname{Ker}$ は自明になるため, この準同型は埋め込みになり, 像は $A_8$ に入る. 位数が一致するので同型である. $\blacksquare$

ちなみに, 解説では最後に However, while this indicates that the problem is a useful one, knowing group theory is of no use in solving it! と書いてありました. 耳が痛いですね.