空論上の砂、楼閣上の机。

The Castle of Indolence

MWG 第1章 選好と選択

なんかレポート書くために第6章の前半をちょっと読んでたら, 割と面白かったのでちょこちょこ読んでみます. 更新は不定期です.

Microeconomic Theory

Microeconomic Theory

  • 作者: Andreu Mas-Colell,Michael Dennis Whinston,Jerry R. Green
  • 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr (Sd)
  • 発売日: 1995/06/01
  • メディア: ペーパーバック
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当方, 経済学は全く勉強したことがないので, ミスやトンチンカンな言説があったらすぐ教えてください. また, 練習問題を参照する際は 「→ Ex. hoge」と書きました.

さて, ミクロ経済学は経済活動を「個々人が私益を追求する経済主体間の相互作用」としてモデル化します. したがって, 個人の意思決定について考察するのが先決だというのは納得できることだと思います. 意思決定をする以上, その舞台となる選択肢 (alternatives) を考える必要があります. ただし, 選択肢にダブりがあっては面倒なので, 互いに排反 (mutually exclusive) だと仮定します. 経済主体は選択肢について何らかの形で選好 (preference) を持っているので, 「二項関係」を用いるアプローチと「選択規則」を用いるアプローチとで考察することができます. 順に見ていくことにしましょう.

選好関係

選択肢を表す空でない集合を以下断りなく $X$ と書きます. このとき $X$ 上の二項関係 $\succsim$ を選好関係 (preference relation) といい, $x\succsim y$ なら「$x$ は $y$ と少なくとも同程度に好ましい」($x$ is at least as good as $y$) といい, $x\succsim y\land y\,{\succsim}\mathllap{/\,} x\iff x\succ y$ なら「$x$ は $y$ より(厳密に)好ましい」($x$ is preferred to $y$) といい, $x\succsim y\land y\succsim x\iff x\sim y$ なら「$x$ は $y$ は同程度である」($x$ is indifferent to $y$) という.

定義1.(合理性)

任意の $x,y\in X$ に対して $x\succsim y\lor y\succsim x$ が成り立ち(完備性), 任意の $x,y,z\in X$ に対して $x\succsim y\land y\succsim z\Rightarrow x\succsim z$ が成り立つ(推移性)とき, 選好関係 $\succsim$ が合理的であるという.

完備性は「どの2つを選んできても『こっちの方が好き!』と返せて, 『いや〜優劣つけられないよ』などと返さないこと」を指していて, 推移性は「三つ巴みたいな状況が起こらず, 完全に矛盾しないロンリ的な嗜好をもっていること」を指していると解釈できます. 当然, 現実の人間は煩悩と優柔不断さに塗れているので, そんなシンプルには行きません. たとえば「5cmのアイスと5.00000001cmのアイス」をノーヒントで出しても「いや同じじゃね...?」となりますが, どんどん続けていって「5cmと6cmのアイス」ぐらいになるとようやく「お, こっちの方が大きいじゃん」とわかります. しかしこれは推移性に矛盾するケースだといえます. 他にも色々みてみましょう.

例2.(フレーミング効果)

Kahneman, Tversky らが1984年に提起した認知バイアスの一種. 次のような状況を考えてみよう.

①「125ドルのステレオと15ドルの電卓を買おうとしています. ところがセールスマンが言うには, 電卓が5ドル割引で徒歩20分の店で売られているらしい. ステレオは同じ値段とのこと. 店まで歩きに行くか?」

②「125ドルのステレオと15ドルの電卓を買おうとしています. ところがセールスマンが言うには, ステレオが5ドル割引で徒歩20分の店で売られているらしい. 電卓は同じ値段とのこと. 店まで歩きに行くか?」

このとき, 大多数の人は①>②で「歩きに行く」を選ぶ. そこで次の状況を考えてみる.

③「品切れだったのでその店まで行かなければならないが, 補償として5ドルもらえることになった. しかしステレオ側か電卓側かを気にするか?」

すると, ③は「どっちでもいい」が大半を占めるので, この思考実験においては推移律が成り立たなくなった.

例3.(コンドルセのパラドクス)

選択肢が $\{a,b,c\}$ で, Aさんは $a\succ b\succ c$, Bさんは $c\succ a \succ b$, Cさんは $b\succ c\succ a$ という選好を持っているとする. このときに投票をとると堂々巡りとなり, 推移律は成り立たない.

例4.

たとえばある喫煙者が「一日一本ぐらいは吸いたいけど, ヘビースモーカーってのはやだね」と思っていたとしましょう. ところが吸っているうちに「やっぱりヘビースモーカーのほうがいいや...」となれば推移律は崩れます. 依存性が高い行為によく見られます.

とはいえども, 物理学と同様な感じで, 所詮はモデル近似です. ひとまずこのモデルもそんなに大失敗するわけではなさそうだし, 失敗したらまた作り直したり調整したりすればいいわけです.

ひとまず, 合理性を仮定することで次のような性質が従います.

命題5.

合理的な選好関係 $\succsim$ に対し,

① $\succ$ は任意の$x\in X$に対して$x\,{\succ}\mathllap{/\,}x$であり(非反射性), 推移性を満たす.

② $\sim$ は反射性, 推移性を満たし, 任意の $x,y\in X$ に対して $x\sim y\Rightarrow y\sim x$ が成り立つ(対称性).

③ $x\succ y\succsim z\Rightarrow x\succ z.$

証明. 明らか. (→Ex. 1.B.2, 1.B.1)

省略とかではなく, 本当に明らかです.

定義6.(効用関数)

任意の $x,y\in X$ に対して $x\succsim y\iff u(x)\geqq u(y)$ となる関数 $u\colon X\to\mathbf{R}$ を選好関係 $\succsim$ を表現する効用関数という.

明らかに効用関数は一意ではありません. 直観的にも論理的にもアタリマエです.(具体的には単調増加関数を噛ましてもOKなことをいえばよいです→Ex. 1.B.3)

例7.

$u(x)=u(y)\Rightarrow x\sim y$, $u(x)>u(y)\Rightarrow x\succ y$ と定めた $u$ は $\succsim$ を表現する効用関数. (→Ex. 1.B.4)

命題8.

選好関係が表現可能ならば合理的である.

証明. $\mathbf{R}$は通常の大小関係により全順序集合であるからよい.

逆が成り立つかというと, $X$ が有限集合なら成り立つ.

命題9.(→Ex 1.B.5)

有限集合上の選好関係に対し, 表現可能であることと合理的であることは同値である.

証明. 命題8より「有限集合 $X$ 上の合理的な選好関係 $\succsim$ に対し, $\succsim$ を表現する効用関数 $u\colon X\to\mathbf{R}$ が存在する」ことを言えば十分である.

$\succsim$ が合理的なので $\sim$ は同値関係であるから, 商集合 $X / {\sim}=\{X_1,\dots,X_n\}$ が存在する. 仮定から $\succsim$ は全順序だったので$X_1,\dots,X_n$を $X'_n\succsim\dots\succsim X'_1$ と並び替えることができる. ここで同値類 $X'_i$ に属している $X$ の元に対し $i$ を対応させる関数は $\succsim$ を表現する効用関数となっている.

コメントで前の証明のマズいところを指摘していただきました. ありがとうございます.

選択規則

定義10.(選択構造)

$X$ 上の選択構造 (choice structure) とは組$(\mathcal{B},C)$で, $\mathcal{B}\subset 2^X\setminus\varnothing$, $C\colon\mathcal{B}\to\mathcal{B}$ かつ $C(B)\subset B$ を満たすもの.

なお, $C(B)$ は $B$ が与えられたときに考えられる選択肢の集合と解釈できます. $C(B)\subset B$ という条件は「いや $B$ から選んだつもりなんだけど、なんか $B$ にない選択肢選んじゃった」ということは起こらないようにするためです。

例11.

$X=\{x,y,z\}$, $\mathcal{B}=\{\{x,y\},\{x,y,z\}\}$ とする. $C_1(\{x,y\})=\{x\}$, $C_1(\{x,y,z\})=\{x\}$ とおけば, $(\mathcal{B},C_1)$ は選択構造となる. 特に, 「問答無用で $x$ を選ばせる」場合だと解釈できる.

他にもたとえば $C_2(\{x,y\})=\{x\}$, $C_2(\{x,y,z\})=\{y\}$ としても選択構造は入る.

とはいえども, モデルを構築する際に $C_2$ のような場合は省いてもよいでしょう. 選択肢によって嗜好が変わってしまうのは少し変だし面倒だからです. 特に2個の選択肢についてそういった状況が起こらないとする公理を顕示選好の弱公理といいます. 顕示選好の弱公理を定式化するにあたって, 顕示選好関係を定義しておきます.

定義12.(顕示選好関係)

選択構造 $(\mathcal{B},C)$ に対して顕示選好関係 $\succsim^{\star}$ を次のように定義する.

$$x\succsim^{\star}y\iff{}^{\exists}B\in\mathcal{B}, x,y\in B, x\in C(B)$$

ここで $y\in C(B)$ の可能性もあることに注意. その可能性が排除されているとき顕示的に好ましい (revealed preferred) といい, 排除されていないとき顕示的に少なくとも同程度に好ましい (revealed at least as good as) といいます. なお, 顕示選好関係では特に完備性や推移性を要請しないので, 比較する際には条件を確認した上ではないといけません.

さて, 上で定義した言葉を用いれば, 顕示選好の弱公理とは「$x$ が $y$ と顕示的に少なくとも同程度に好ましいなら, $y$ が $x$ より顕示的に好ましくなることは有り得ない」とできます. そこで「二項関係」を用いるアプローチと「選択規則」を用いるアプローチとが出揃ったわけですが, 結局これらはどういう関係なのかについて考える必要があります. すなわち, 「合理的な選好関係を持ってたら, ちゃんと顕示選好の弱公理を満たせるような選択はできるのか?」ということと, 「顕示選好の弱公理を満たすように選択してたら, 合理的な選好関係は存在するのか?」ということを考える必要があります. 結論からいえば, 「前者は正しいけど, 後者はわからない」となります.

両者の関係性

前者について議論しましょう.

定義13.

合理的な選好関係 $\succsim$ に対し定義される

$$C^{\star}_{\succsim}(B)=\{x\in B\mid{}^{\forall} y\in B, x\succsim y\}$$
から誘導される組$(\mathcal{B},C^{\star}_{\succsim})$は選択構造となり, $\succsim$ が生成する (generates) 選択構造という.

注意14.

$C^{\star}_{\succsim}$ が空集合となった場合には存在しないが, 有限集合ならば必ず存在する(→Ex. 1.D.2). 面倒なので, 以下では存在する場合についてのみ考える.

命題15.

合理的な選好関係 $\succsim$ から生成される $(\mathcal{B},C^{\star}_{\succsim})$ は顕示選好の弱公理を満たす.

証明. 定義より容易.

後者について議論しましょう.

定義16.

ある合理的な選好関係 $\succsim$ が与えられている選択構造 $(\mathcal{B},C)$ を生成するならば, $\succsim$ は $C$ を合理化するという.

注意17.

当然ながら, 合理化する選好関係は一般には一意ではない.

また, 生成しなくても

$${}^{\forall} B\in\mathcal{B}, C(B)\subset C^{\star}_{\succsim}(B)$$
だけでよいとすることもある.

しかし, 実は顕示選好の弱公理は合理化する選好関係の存在性を保証するには不十分です.

例18.

$X=\{x,y,z\}$, $\mathcal{B}=\{\{x,y\},\{y,z\},\{x,z\}\}$, $C(\{x,y\})=\{x\}$, $C(\{y,z\})=\{y\}$, $C(\{x,z\})=\{z\}$ とするとき, 顕示選好の弱公理を満たすが合理化する選好関係は存在しない.

命題.

顕示選好の弱公理を満たし, 3つ以下の元からなるすべての $X$ の部分集合を含む選択構造 $(\mathcal{B},C)$ に対し, $C$ を合理化する選好関係が一意に存在する.

略証. 顕示選好 $\succsim^{\star}$ が所望の選好関係であることを示せばよい. すなわち, ① $\succsim^{\star}$ は完備性と推移性を有していて, ② $C$ を合理化して, ③ 一意であることを示せば良い. ①の推移性で3元集合の存在を用いる. ②は愚直にやればよい. なお, $\mathcal{B}$ はすべての2元集合を含んでいたので, それらによって合理化する選好関係を一意に復元することができるから, ③も示される.

とはいえど, この設定はいささか経済学において特殊にすぎるので, 第3章でもう一度論じることとしましょう.

あと演習問題は基本的に素直な上に, 問題書いて解答書いて......ってやるのが著しく面倒なので, 今のところは省略します. 要望があるか, 自分の気が向くかしたら, 書くかもしれません.